きっかけ

「きっかけ」アイキャッチ画像

「この世には、体に電流が流れるほどの衝撃的な出会いがある。」
「それが人生を大きく変えることだってある。」
そんな超ロマンチックなことがあるものかと、この類の言葉にしらけていた私が、お恥ずかしながらその生き証人になってしまいました。

前略 ガラパゴスバットフィッシュ様…

高校3年生になった頃、私は好きな教科である国語系の学科に進学したいと考えていました。
凛としていて優しくて美しい、同じ女性として憧れの恩師が私の国語の先生で、「先生の母校に入って後輩になりたい」と具体的な志望大学まで決めたのです。

しかし、その後の将来の夢や目標は持っていませんでした。
小さい頃から、「○○になりたい」と特に思ったことのなかった私にはそれで普通だったので、特に問題ではありませんでしたが。
大学生になったら何か見つかればいいなあ、とゆるふわな考えでおりました。

それは、運命の出会い…

忘れもしないあの海の日。
下北沢で時間を持て余していた私はヴィレッジヴァンガードに入りました。
そこで、「きもかわくん」という一冊の生物写真集を手に取りました。
気持ち悪くて可愛い生物を紹介する本だそうで、生き物が大好きな私の触手が伸びたのです。

その本の中にいたのが、あなたです。

一目見た瞬間、「なんだこの生き物!?」と体に電流が走りました。
口紅を塗ったかのような真っ赤な唇に、前足と後足にしか見えない胸鰭と腹鰭。
極めつけに、魚なのに泳ぎが不得意で基本的に歩くという情報。

なんだこれは…なんだこれは!

体中の毛細血管という毛細血管までもが総動員でわっしょいわっしょいとお祭り騒ぎしているような、体の芯からの高揚感に、ちょっと立ち読みだけしようと手に取ったその本をレジに持って行き、すごい勢いでマクドナルドに入店、あなたのページをひたすら眺めてうっとりしていたら2時間経っていました。

ガラパゴスバットフィッシュご尊顔

この地球にこんなに面白くて可愛い生き物がいるなんて。

どこに生息しているの?ガラパゴス諸島ってところか。
ガラパゴス諸島ってどこだろう?エクアドル領なのね。
エクアドルはスペイン語圏なのか…。
ということは、スペイン語を勉強すればガラパゴスバットフィッシュに会えるようになる!

私の思考回路は以上の順でございました。
恩師の母校、つまり私の志望校は外国語教育が有名で定評がありました。
この学校なら第2外国語の授業もレベルが高いだろうから、すごく都合がいい!と心の中で拍手喝采。

先生と同じ大学・学科に入って国文学を勉強しつつ、第2外国語でスペイン語を習得して、バットフィッシュに会うためにガラパゴス諸島へ行くんだ!と燃え上がりました。

「好き」という情熱が、私を駆り立てた…

受験勉強のノートの表紙裏には、あなたの絵を描いてやる気をアップ。
受験期という非常につらい期間ではありましたが、初めての大きな夢を得た私は、あなたのことを思い浮かべると自動的に幸福感を覚えるという便利な機能を搭載。
以前の自分よりもへこたれずに強くいられるようになったのです。

その甲斐ありまして、無事に志望校に


落ちました! ドンドコ♪└|┌|└| |┘|┐|┘ドンドコ

ここで落ちるんかい!ダメじゃないか!そんなのダメじゃないか!
ここであなたへの思いは断絶せざるを得ないのか?
生まれて初めてこんなにも強く抱いた夢なのに?

どうしても志望校を諦めきれなかった私は、無謀にも浪人して再チャレンジすることを決めます。
この時、ものすごく勝手なわがままで浪人することを受け入れてくれ、全面的にサポートしてくれた両親には今も心から感謝しています。

消えないどころか、強まるあなたへの思い…

そして浪人生活が始まると、あなたへの思いはより強くなっていきました。
あなたについて調べるにつれ、ガラパゴス諸島自体にもとても興味がわいてきました。

どんな地域だろう、エクアドル領だから南米文化の島々だろうか…。

志望校にはスペイン語を専攻する学科がありました。
そこではスペイン語のみでなく、スペイン語圏の地域文化や歴史についても勉強できるのだそうで。

あれ?もういっそこの学科を目指した方がいいのではないか?

この大学は他学科の授業も幅広く選択できる制度なので、スペイン語学科に入って国文学科の授業も受講すればいいではないか!という意識に、徐々に変わっていきました。
あなたの存在は、とうとう私の志望学科の選択にまで影響を及ぼしたのです。

そして物語は進む…

そして1年間の浪人生活の末。
憧れた志望校の、スペイン語の学科に合格しました。

一方で、国文学科にはまたしても落ちましたが!ドンドコ♪└|∵┌|└| ∵ |┘|┐∵|┘ドンドコ♪

たまたま手に取った1冊の本を通してのあなたとの出会いが、私の進路をも決定づけてしまいました。

しかしそれが私にはとても幸せでした。
あなたという存在を知ってから、こんなに心が躍るようになったのです。
スペイン語を学ぶことのできる学科に合格したのは、あなたに直接お会いするための第一歩を踏み出す切符を手に入れたのと同義でありますから、嬉しくて嬉しくてたまらなかったです。

ガラパゴスバットフィシュ正面顔

しかしほどなくして、あることを思い出しました。

私、語学嫌いだった。

挫折と苦労の日々の幕開けでございました。
大学に入学してからの自業自得という名の茨道は、この時点であなたも察しているかもしれませんが、それはまた日を改めて綴りたいと思います。

草々

《この記事の続編》

挫折

《ガラパゴスバットフィッシュがどんな魚かはこちら!》

ABOUT GALAPAGOS BATFISH

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ABOUTこの記事をかいた人

ガラパゴスバットフィッシュ愛好家、NPO法人日本ガラパゴスの会スタッフ。著書『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん― ガラパゴスの秘魚』(さくら舎) 。 たまたま本で見たガラパゴスバットフィッシュに大恋愛し、大学在学中に2度ガラパゴス諸島に渡航、バットフィッシュを観察。 卒業後は、ガラパゴス諸島のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティアスタッフとして活動。およそ1年半をガラパゴス諸島及びエクアドル本土で生活した。現在、ガラパゴスバットフィッシュやガラパゴス諸島に関する寄稿、トーク、講演、メディア出演等を行っている。