私がガラパゴス諸島を目指した理由は単純明快、ガラパゴスバットフィッシュに会うためでした。
《その経緯の全貌はこちらの記事をどうぞ》
ひたすらにバットフィッシュへの思いを貫き、大学3年の夏、満を持してガラパゴス諸島に初渡航した私。
そのため当時は、頭の中はガラパゴスバットフィッシュでいっぱいで、今思えば正直ガラパゴス諸島自体にはそこまで強い思い入れはなかったのです。
しかし、いざ足を踏み入れたガラパゴスの世界は予想以上に素晴らしくて!
その大自然はもちろんですが、暖かい島の人々も心から好きになりました。
1ヶ月間の初渡航では様々な出来事がありましたが、その中でも私が明確にガラパゴス諸島に惚れ込むきっかけとなった出来事をお話ししたいと思います。
イサべラ島にやってきた
ガラパゴスの中心島であるサンタ・クルス島にまずしばらく滞在した後、次なる目的地イサべラ島に定期船で移動しました。
《ガラパゴス諸島内の定期船利用方法はこちらの記事をどうぞ》
午後発の船を利用したため、イサべラ島に到着したのは夕方近くになってから。
この島で利用するホステルに目星はつけていたのですが、なにぶん初到来の島で港からどう行けばいいのかがわからず困っていると
「島の中心地まではここから結構距離があるよ、乗っていったら?」
とタクシーの運転手さんが声をかけてくださいました。
ガラパゴスでは、港到着後宿泊先までの移動はタクシーを利用するのが一般的です。
そのため、声をかけてくださった運転手さんのタクシーには既に観光客が数名乗っていました。
皆行先は中心地ですから、一度に乗せられるだけお客を乗せる乗り合いスタイルなのですね。
ちなみに、ガラパゴスのタクシーは軽トラです。
私が乗ろうとすると車内はもう他のお客さんたちで満員でスペースがなかったので、その方々の荷物と共に私は荷台部分で揺られていくことになりました。
荷台からは島の景色がふんだんに眺められ、初めてのイサべラ島の景色をキョロキョロ見渡しながら楽しんでいました。
「君の目的地、La Jungla着いたよ~」
タクシーが停車し、運転手さんが荷台の私に声をかけてくださいました。
あっ、もう着いたのか!
私が一番最初に降りる客だったとは、まだまだかかると思って油断していた!
慌てて自分の荷物をパッと抱えて荷台から降り、首から下げていた小銭入れからお代を払っていると、今回の宿La Junglaの宿主の女性が出てきてくださいました。
「予約もせず来てしまったのですが、今日から数日間ここに宿泊できますか?」
とおかみさんに尋ねると、
「大丈夫よ!どうぞこちらへ」
と迎えてくださったので、タクシーの運転手さんや他の乗客と無事にバイバイし宿のエントランスへ。
チェックイン用紙に記入しながらおかみさんと雑談タイム。
「日本から来たの?1人で大変だったでしょう。」
「サンタ・クルス島は楽しかった?」
とても和やかな雰囲気で、このホステルを選んでよかった…と感じました。
「あ、宿泊代先にお支払させてください。おいくらですか?」
と財布をしまっていた鞄に手をかけようととすると…
絶体絶命の大ピンチ!!
なんと、私の鞄がないではありませんか!
え!?どうして!?さっきまであったのに!とパニックになりながら記憶を辿ってみると判明しました。
さきほどのタクシーの荷台に置いてきてしまったのです!
1ヶ月間の滞在だからと意気込んで、私はスーツケース、リュック、肩掛けの鞄の3点セットでガラパゴス渡航に挑んでいました。
ホステル到着時に慌てて荷台から降りた私は、その際スーツケースとリュックのみを手にとっていたのです。
運の悪いことに、荷台には他の乗客の荷物も一緒に積まれていたので、私の鞄がそこに残っていても違和感のある光景ではありませんでした。
しかし鞄の中には財布ばかりか、ATMで下ろしておいた現金(イサべラ島にはこの当時ATMがなかったため、サンタ・クルス島のATMで乗船前に下ろしていました)やパソコンまで入っているのです!
つまり、今私の全財産は首から下げた小銭入れに入っている20ドルだけ。
大ピンチでございます!!!!!
事の重大さに完全にパニックになった私は、おかみさんにしどろもどろで事情を伝えました。
半泣きになりながら、どうしたらいいかわからないでいる私に
「さっきあなたが乗ってきたタクシー運転手顔見知りなの。名前までは分からないけど…他のタクシー運転手たちに電話して彼の特徴とか伝えてみるから、それで本人につないでもらおう。待ってて!」
とおかみさんは励ますように言い、各方面に電話を始めました。
しかし、タクシーなんてこの島に何台もあります。
果たして連絡なんてつくのか。
仮にさきほどのタクシーが判明しても、他の乗客がもう私の鞄を持ってどこかに下車していってしまったかもしれない。
そうでなくても、「鞄?残ってなかったなぁ」と知らんふりして、運転手は私の鞄を持ち去ることだって可能なはず。
外国で財布を落として無事に帰ってきたなんてほとんど聞いたことがありません。
ましてや、それが貴重品のふんだんに入った鞄まるごとなんてなったら…
どん底に落ち込みながら「私はバカだ…なんてバカなんだ…」と繰り返す私の横に座り、おかみさんはずっと背中をさすってくれていました。
奇跡が起こった
それから10分くらい経ったころでしょうか。
電話が鳴り、おかみさんが応対したあと…
「今、あの運転手から連絡が来たわ!鞄が荷台に残ってたから今こっちに届けてくれるって!」
笑顔で私にそう言ったのです。
え!ほんとに!?
なんということでしょうか、絶対にありえないと思った奇跡が起こったのです!
ほどなくしてさきほど私が乗ってきたタクシーが到着。
運転手のおじさんが笑顔で私に鞄を手渡してくださいました。
鞄を開けてみると、何一つ無くなっているものはありませんでした。
失礼なようですが、念には念をと思い財布の中身や現金の中身も確認しましたが、1ドルも減っていませんでした。
あまりの嬉しさとご迷惑をかけた申し訳なさで、泣きながら私はお二人にハグし感謝申し上げまくりました。
その時にお二人が私に言った言葉が今も忘れられないのです。
「ガラパゴスはこれが普通だよ。」
ガラパゴスの人々の優しさに触れた
その言葉を聞き、少しでも「盗られたんじゃないか」と疑ってしまったことにすごく申し訳なくなりました。
この滞在中、ガラパゴスの治安の良さには既に何度も触れてきていたのです。
ガラパゴスって、本当に良いところだな…。
お陰で無事に宿泊料金を支払うことができ、部屋に入ろうとするとおかみさんが
「色々あって疲れたでしょ、ご馳走するから今夜はうちに夕飯食べにいらっしゃい。」
と声を掛けてくださいました。
そんな、そこまでしていただくのはあまりに申し訳ない…と断ろうとすると
「いいのよ、私があなたに来てほしいの。だってあなたすごくおもしろいから!夫や娘にもあなたを紹介したいし!」
あ、ありがとうございます…!
でもおもしろいってどういうこと?
思い返すと、鞄をタクシーに置き忘れ絶望に打ちひしがれている時、
「私はバカだ…」
と私は繰り返しつぶやいていました。
その度におかみさんが若干ウケていたことに気付きました。
というのも、後から気付いたのですがこの「バカ」のニュアンスのつもりで私はスペイン語で
「Soy loca.」
とつぶやいていたのですが、この場合正しくはtonta(まぬけな、バカな)を用いるようで、locaというと確かにバカという意味ではありますが「頭がおかしい、ありえない精神状態」というニュアンスの方が強く。
※さらにいえば、この場合動詞はSoyではなくEstoy
つまり、私はずっと悲壮感漂った顔で
「私は狂気に満ちています…精神異常…クレイジー…」
とつぶやいていたことになるのです。
そりゃあおかみさんも吹き出します。
当時のスペイン語力ではまだそのニュアンスの違いがわからなかったのです…。
とても楽しい夜のひととき
ということで、夜はおかみさんのご自宅に招かれ手料理をご家族の皆様と頂くことに。
「食材、米以外は全部ここイサべラ産よ!」
と自慢げにふるまってくださった料理は本当に本当においしかったです。
伊勢海老と牛ステーキが一緒に頂けるなんて贅沢の極み…!
ご主人と中学生の娘さんもとても親切でした。
「この子ったら、鞄をタクシーに忘れて真っ青になって『私は狂った人間』って言ってたのよ!」
とおかみさんが話すと、ふたりとも大爆笑。
その時点ではなぜ自分がそんなに笑われているのかもわからず、「えへへ」とか言いながらとにかくおいしい食事に夢中になっていると
「ブフォッ!!!ゴホッゴホッ」
と牛肉にむせてしまいました』
そんな私の様子を見ておかみさんご一家は
「ははははは!やっぱりおもしろいよアキコは!」
と更に大爆笑。
なんだかウケまくったので私もにっこり。
食後、「イサべラ島の町を案内するよ」とおかみさんご一家皆様で私を夜のお散歩に連れていってくださいました。
おかげで、一通りイサべラ島の町がわかったので翌日以降の観光にすごく助かりました。
ご家族の皆様と歩きながら、今日一日のこと、これまでのガラパゴス滞在のことを思い出していました。
ガラパゴスバットフィッシュだけのためにここまで来たけど、私もうすっかりガラパゴス諸島自体の大ファンだ。
そして私は翌年もガラパゴスを再訪し、更に翌年とうとうガラパゴス諸島に住むにまで至ったのでした…。
~ちなみに、以下の記事に登場するおかみさんが今回のおかみさんです~
~このブログの著者の本『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん』(さくら舎)好評発売中!~
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